平成29年度

平成29年度の総括

事業推進責任者から

事業実行責任者 猪股裕紀洋
(熊本労災病院 院長、熊本大学小児外科・移植外科 前教授、熊本大学名誉教授)

 実行責任者の猪股裕紀洋です。本事業も4年目を終えることとなりました。残すところあと1年となり、終了後の事についても考えるべき時となりました。3月11日に開催された、平成29年度まとめ全体会議には、神戸大学の移植外科医でもある厚労省移植医療推進支援室の蔵満室長補佐にもお出でいただき、このSNUC-LT事業が、医療人育成を通して移植医療推進にいかに寄与するか、の期待もお話しいただきました。
 当日、行いました事業報告の要約をここに記載させていただきます。
 まず、平成29年10月から、猪股の後任として、日比泰造先生が、熊本大学小児外科・移植外科の教授としてご着任になり、本事業の事務責任者となられています。ただ、事業の継続上、企画などを行ってきた立場から、本年度の報告も猪股から行わせていただきました。
 外科医は、留学に伴う期間延長を行われた長崎の今村先生を含め、I〜IV期まで、合計14名、コーディネーターはIII,IV期生の2名、病理はIII期生2名、合計18名の履修参加によって、本年度の育成が行われました。
 履修カリキュラムは、例年通りのものが踏襲されました。各コースとも、他施設実習が履修の根幹ではありますが、今年度はそれがやや低調でした。外科医に関しては、他施設での手術の研修がある程度体験者が増え、それぞれの施設での情報共有が進んで、結果的に手技の違いなどに目新しさがなくなってきた、という面があるかもしれません。ただ、他施設実習の経験の少ない履修生には、今後とも是非参加してほしいと思っております。外科医の手術研修では、韓国の国立ソウル大学のKS.Suh教授のご配慮で同施設での研修を取り入れ、履修生2名が行っております。病理の実習に関しては、本年度も京都大学の羽賀教授のご尽力により、2名の履修生が貴重な経験を積ませていただきました。
 ブタを用いた手術の実習は10月2月の2回行い、合計14名の外科履修生が参加して、執刀経験を積みました。また、オランダのライデン大学で行われた、ESOT主宰の2日間の、分割肝を含めた手技実習には履修生3名が参加し、国内では得られない貴重な経験を積みました。
 今年度はこれまで3年間行ってきた講演会ではなく、肝移植の具体的な手技について細かい議論を通した研修を行う目的で、「Meet-the-Expertセミナー」として、肝静脈、門脈の吻合手技に関し、長崎の江口教授から基本的な手技を享受いただいた後、各施設履修生を中心に紹介発表していただき、細部にわたって議論を深め、非常に貴重な学びとなりました。
 例年通り、肝移植研究会で、3つの共催企画を立てさせていただき、外科医、コーディネーター、病理の各コース履修生が参加し発表や討論を通して、肝移植の知識技能の涵養に生かしました。さらに、消化器外科学会に際して、血管の顕微鏡下吻合セミナーの共催も企画して履修生が参加しました。特別な講演会として、日本エイズ学会で行われた HIV陽性ドナーからの脳死肝移植(Dorry Segev教授)を共催企画し、在京のSNUC関係者や司会を担当された長崎大学の履修生なども参加され、希有なお話しを傾聴しました。
 定例的な内部の勉強会講習会としては、コーディネータコースがweb会議を含めて3回の研修会を開催し、また手入れとなっているweb病理検討会は7回開催し、合計20例の病理標本供覧とその診断討議講義が行われました。
 HPにアップした教材としては、10月のブタ実習に際して行われた、ドナーコーディネーター、先輩移植外科医からの講義と、実際のブタでの手術手技ビデオがあります。今後、同様な実習に際しての予習復習の材料になると思います。
 最後になりますが、外科履修生I期生で、オランダに留学された岡山大学の高木先生が、Transplantation Proceedings に、「Six National University Consortium in Liver Transplant Professionals Training (SNUC-LT) Program in Japan」という題で投稿受理され、同誌50巻168頁に掲載されています。本プログラムの国際的な紹介となりました。
 本年度は、外科医コース6名、病理2名、コーディネーター2名の、合計10名の肝移植医療人の履修修了者を出すことができました。本プログラムによって、将来的に国内で肝移植を担う人材プールの底上げに大きく寄与していると自負しております。
 あと1年となりましたが、全体会議冒頭の蔵満先生のご指摘もありましたように、法律の改正で増加しつつある我が国の死体肝移植への対応のうえで、さらなる移植外科医の養成は喫緊の課題です。特に負担の大きい、死体移植での臓器定期出などに際して、本プログラムの履修カリキュラムが施設間連携や相互扶助のツールとして活きることも一考に値するものと思います。活動資金は1700万円余りとさらに減少して厳しい枠となりますが、皆で最後の年度を活発に盛り上げて有終の美を飾りたいと思います。

平成29年度の個別活動実績

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