ご挨拶
課題解決型高度医療人材養成プログラム
国内初の、肝臓移植を担う高度医療人養成(-六大学連携プログラム-)発足に際して
事業責任者からの挨拶
熊本大学医学部附属病院 小児外科・移植外科 教授
猪股 裕紀洋
この度、平成26年度に文部科学省から公募された「課題解決型高度医療人材養成プログラム」の「高難度手術領域」で、「国内初の、肝臓移植を担う高度医療人養成(-六大学連携プログラム-)として応募し、採択され、今年度から事業が開始されました。応募や採択に際してご支援ご協力いただいた関係の皆様にまず深く御礼申し上げます。
現在、国内での肝移植の年間総症例数は、2005年の570例をピークに減少しつつ有り、2013年には408例になっています。国内での肝疾患死亡率は、ウイルス性肝炎の治療効果の向上もあって減少傾向ですが、肝硬変の原因として、アルコール性や非アルコール性の代謝障害などは増加傾向にあり、また、日々臨床現場では、なお妥当な時期を過ぎた瀕死の肝不全患者さんに遭遇することがまれではありません。肝移植の症例数減少は、肝疾患治療成績向上だけではなく、肝移植へのアクセス不良や診療側の受け入れ能力の低下もその要因と考えられます。10時間以上かかる肝臓移植手術を担当する医師は、極めて状態の不安定な術後管理を含めて、強い使命感と高度の技量、知識を要求されます。外科医の減少には歯止めがかかりつつありますが,肝臓移植を担う次世代の医師たちは、今なお、欧米での留学経験にその養成課程を委ねることも多く、国内で潤沢に育っている状況にありません。また、脳死臓器移植は、少ないながらも増加しつつあり、全国に23ある認定施設では、種々の頻度で緊急に飛び込む、ドナー肝臓摘出とその移植に、一般の定時日常業務に加えての負担がかかっています。
「旧六」といわれる、熊本、長崎、岡山、金沢、千葉、新潟の各大学は、地方大学としての地域医療への貢献と同時に、先進医療の推進と発信も担うというミッションを共有しています。この6大学は、症例の多寡を除けば、肝移植の基盤とそのニーズを有している点も共通で、今回、この6大学が連携して次世代の肝移植手術を担う医師を養成することを着想しました。さらに、外科医の活動が高まると、移植医療施設に必須のレシピエントコーディネーターや移植病理医を平行して養成しなければならない必然があり、そのプログラムを平行して走らすこととなりました。さらに、国内で最多症例を有する京都大学と、小児の肝移植専門施設として高い活動性を維持している国立成育医療研究センターには指導施設として参加していただき、多方面でのご援助をいただく予定です。
本プログラムは、実働可能な医療人養成が主目的であり、手術や、病理標本検討、移植のコーディネーション、いずれの領域でも実習をカリキュラムの中心に据えました。たとえば、脳死肝移植に際しても、貴重な機会を外科医養成にも活かそうと、連絡体制を密に保ちたいと思います。さらに、基本的知識を講義する座学を加えており、各施設がそれぞれの経験から共有できる共通の講義内容を定めて経験を有する6大学の各所属医師や専門家が「内部」講師となったり、「外部」の専門家を招聘しての実習や講演講義を開催するなどして、技能に加えて知識の均てん化も目指しています。
また、プログラムの評価委員には、外部の専門家の方々に参加していただき、年度ごとの活動評価をいただき、カリキュラムの見直しなども行っていく予定です。
本事業の予定期間は5年間であり、この間に、全部で18名の外科医、8名の病理医、12名のコーディネーターを目指す看護師、の養成を目標にしています。すでに平成26年度の履修生として、外科医4名、看護師2名が、実習などを開始しつつあります。多くの医療人が育てば、各施設内はもとより、国内の施設間での協力も行いやすくなり、各医療人の負担軽減と、さらにはその増加にもつながる期待ができます。また、このプログラムのカリキュラムの成熟が、今までなかった新たな専門外科医養成プログラムの先駆けにもなり得ます。
これからも、事業の責任者として円滑で充実した養成プログラムの維持発展に注力したいと存じますが、主体は参加6大学全体でもあります。ファカルティー、チューター、となっている各施設御担当の先生がたはもちろん、履修生の皆様も、忌憚のないご意見や企画のご提案などを随時いただき、能動的に参加していただくことを期待しております。また、プログラム外のかたも、見守っていただきながら、ご意見などをお寄せいただければ幸いです。
平成26年11月