平成27年度

平成27年度の総括

本事業の実績・成果 (文部科学省提出実績報告書から抜粋)

【本事業の実績】

 平成27年度は、より実質的でかつ効率的な養成教育を継続して行った。
 外科医コース、コーディネーターコースの履修生については、各履修生が数日間から1ヶ月間に亘り他施設実習を行った。さらに、外科医コースについては、豚を用いた臓器摘出移植実習を2回開催し、平成26年度開催の本プログラム第1回講演会で招聘したPolak教授の斡旋で、オランダで開催された臓器摘出や分割肝移植セミナーにも参加した。生体肝移植における顕微鏡吻合手技の修得が肝移植施設の必須機能として肝移植研究会から規定され、国際実験顕微鏡外科学会(ISEM)の日本西支部主催の顕微鏡外科セミナーとジョイントして実習セミナーを開催した。日本肝移植研究会(神戸)と日本移植学会(熊本)で共催のシンポジウムやセミナーを開催した他、連携大学(熊本大学、岡山大学、新潟大学)がそれぞれ肝移植関連の講演会を開催し、各参加者が肝移植の手技や合併症等の情報を収集した。講演会、手術動画、講義内容等を随時、ホームページの教材としてアップした。
 コーディネーターコースでも、他施設での実習の他、研究会学会での共催プログラムを企画するとともに、web勉強会を開催した。
 病理コースは、バーチャルスライドシステムを活用し、テレパソロジーによる講演会、標本供覧検討会を開催した。これには、外科医コースの履修生も参加した。

〈具体的な実績〉

①連携大学主催の講習会・講演会の開催、学会等で共催講座を開催するなど、本事業の肝移植・臓器移植の領域への周知
 4月21日に熊本大学で履修生を対象として、カナダの肝移植外科医を招いた講演会を開催した。
 8月1日に岡山大学、11月7日に新潟大学で連携施設以外の医療人にも開放した講演会を開催した。
 5月28日、29日に日本肝移植研究会、10月に日本移植学会において、本事業との共催で、外科医コース、病理コース、コーディネーターコースのシンポジウムやパネルディスカッション等を実施し、本事業関係者以外の移植専門領域の医療人全体に本プログラムの実態を周知した。

②各大学で撮影した手術手技の動画や病理画像等、教材データを本事業で平成26年度に設置したサーバに蓄積し、履修生の自己学習に活用
 平成26年度設置したサーバに、今年度、撮影・編集した手術手技や連携大学で開催した講演会、病理のWEB講演会等の動画・資料を蓄積した。
 平成27年度末時点で、8点の手術動画(7点)、各種講演会・講義等の動画及び資料10点が閲覧可能となった。

③他施設における肝移植実習等、実地研修
 外科医コースでは、ホームページ上の各施設の手術予定表を参考にして、1名を除きⅠ期・Ⅱ期履修生(平成26・27年度履修開始)計9名が、のべ26回の他施設での実習を行い、手術手技から術後管理までの修練を行った。
 コーディネーターコースでも、履修生全員4名が、最短3日から最長2週間におよぶ、のべ6回の他施設実習を行い、日常業務を学ぶとともに、実習先施設での講習も受けた。
 病理コースは、実地研修先が、症例の集積されている京都大学に限られることもあり、体制が十分整わず、平成27年度は実地研修ができなかったため、平成28年度も引き続き履修を行うこととなり、4月には実地研修を行うように調整を行っている。

④豚を用いた臓器摘出移植実習
 12月6日、3月27日に外科医コースを対象に講義を含めた豚を用いた臓器摘出実習、移植実習を行った。実習では、ブタをⅡ期生1人につき1頭割り当て、Ⅰ期生が第1及び第2助手として手術に参加し、3テーブルで2回に分けて手術を行った。

⑤国外で開催される、集中的な肝移植担当医療人養成講座や移植実施施設への派遣
 6月にオランダで開催された肝移植手技実習コースに、本プログラム第1回講演会で招聘したPolak教授の斡旋で特別枠での参加が可能となり、外科医コースⅠ期生3名が参加し、摘出保存されているヒトの肝臓を用いた分割実習などの修練を行った。

⑥WEBを用いた講習会、講演会の開催
 遠隔病理に関して実績がある長崎大学にバーチャルスライドサーバを導入し、これを用いたバーチャルスライドシステム及びWEB会議システムを活用した肝臓移植病理WEB検討会を、12月25日及び1月29日に開催した。WEB検討会では、肝移植術後病理診断難渋例に関して、バーチャルスライドシステムを用いてアップされた標本を共有し、病理教育担当教授のコメントを軸に、病理コース履修生、外科医コース履修生が臨床経過を含めて病態を検討した。

⑦WEB会議システムを利用した講習会、検討会の開催
 WEB会議システムを活用し、2月2日(医療福祉関係)、2月10日(免疫抑制療法)、2月15日(医療福祉関係)にコーディネーターコースweb勉強会を開催した。

⑧平成28年度の履修生の募集
 平成28年度の履修生として、外科医コース6名、病理コース2名、コーディネーターコース2名の予定で連携施設に公募した。

⑨ファカルティー委員会、チューター委員会、Co教育チーム会議等の開催 ファカルティー委員会は、2月28日の全体会議に併せて開催し、今年度の活動報告、平成28年度の予定を承認し、評価委員のコメントをもとに、履修システムや新たな履修内容についての議論を行った。 チューター委員会は、7月に1回開催し、この履修体制も含めた肝移植における医療安全に関して意見交換と情報収集を行った。 コーディネーター(Co)教育チーム会議は、10月2日の対面会議、2月2日のWEB会議で履修内容についての討議を行い、履修内容の向上修正を行った。

⑩全コース合同の委員会を開催
 2月28日に全体会議を開催し、平成27年度の活動内容の報告、各履修生本人からの報告、平成28年度の活動内容の討議と承認の後、評価委員から講評コメントを得た。 また、平成27年度で履修を修了したコーディネーターコースの3名に履修修了証を授与した。

⑪評価委員会の開催
 2月28日に全体会議に際して、3名の評価委員が出席し、各履修生からの報告を含めた平成27年度の活動報告及び平成28年度予定への評価のコメントを得た。、欠席者からは活動内容の平成27年度の活動報告、平成28年度の計画を書面で送付した上で書面でのコメントを得た。 なお、平成26年度の評価委員の意見を反映して、平成28年度には1年間の実習を行う予定としている。6大学の連携が実際に活かされることとなっている。

【本事業の成果】 

 外科医コース、コーディネーターコースは、それぞれ実質的な履修を継続した。
 外科医コースⅠ期生は、それぞれ他施設実習を行って技術の習得に努めると同時に、6月には、オランダで開催された臓器摘出や分割肝移植のセミナーに参加して、国内では実際の脳死肝移植での修練が少ない現状を補うことができた。外科医コースⅠ期生のうち1名は、1ヶ月間に及ぶ他施設実習に参加し、複数回の手術手技修得の機会を得ることができ、また術前後の管理や評価に関する修練も可能であった。熊本大学、岡山大学、新潟大学がそれぞれ担当して行った肝移植関連の講演会には多数の履修生が参加し、肝移植の手技や合併症に関する討議、海外の情勢についての情報収集、国内臓器提供に関する知識を得た。豚を用いた臓器摘出移植実習を2回開催し、Ⅰ期生がⅡ期生を指導しつつ、派遣された講師やチューターからの指導も受けて、濃密な執刀経験を得ることができた。肝移植研究会や日本移植学会における共催セミナーやシンポジウムでは、履修生が本プログラムについての発表を行い、他施設との手術手技の比較検討を行って討議する機会となり、履修生のみではなく、移植専門領域の医療人全体に本プログラムの実態が周知されることとなり、各履修生の本プログラム参加の自覚が強く醸成された。ISEMとのジョイントセミナーでは、履修生以外の外科医とともに、顕微鏡吻合の基本的手技を効率よく学ぶことができた。ホームページ上の手術手技、講演会等の記録画像は、履修生が効率的に自己学習する際に有用であった。これまでの外科履修の結果を計るために、外科医コース履修生に対し、12月に行った手術手技経験調査では、Ⅰ期生での第一助手や執刀経験が増加していた。
 コーディネーターコースでは、前年度より他施設の実習が増加し、また、熊本大学での実習時には、複数の医師が肝移植の基礎的事項の講義を行い、各自のそれまでの、自施設における学びで得られた知識を補填する機会となった。このような履修システムの確立をうけて、Ⅰ期生、Ⅱ期生、あわせて4人のうち、3名は履修を修了した。他の、Ⅱ期生1名は実習講習時間が、本務の都合により不足したため、平成28年度も引き続き履修予定である。
 病理コースは、長崎大学にバーチャルスライドサーバを導入し、これを用いてバーチャルスライドシステムを活用したテレパソロジーによる講演会、標本供覧検討会が開催され、病理コース履修生のみならず、外科医コースの履修生にも貴重な勉強の機会となった。ただし、病理の実質的履修は、5月の肝移植研究会における病理検討会以降、このようなWEB講習会からとなったため、履修要件を満たさず、平成28年度も、平成27年度の履修生が引き続いて履修することとなった。 

〈具体的な成果〉 

①連携大学主催の講習会・講演会の開催、学会等で共催講座を開催するなど、本事業の肝移植・臓器移植の領域への周知
 4月開催のカナダの肝移植外科医を招いた講演会、8月、11月の連携大学が担当した講演会により、履修生を含む参加者は、北米での肝移植修練の現状、肝移植で連携する関連各科の診療の現状と課題、臓器提供の現状と推進の方策などについて学ぶ機会となった。
 5月開催の日本肝移植研究会及び10月開催の日本移植学会との共催のセミナー等では、本事業関係者以外の移植専門領域の医療人全体に本プログラムの実態を周知し、高い評価と期待を得るとともに、外科医コースⅠ期生が本プログラムの紹介を行う機会を設け、各履修生の本プログラム参加の自覚が強く醸成された。また、各コースにおいて、育成方法の議論の機会となり、10月の日本移植学会では、欧米外科医による講演が行われ、欧米の育成方法との比較により、本プログラムの向上に効果的であった。

 ②各大学で撮影した手術手技の動画や病理画像等、教材データを本事業で平成26年度に設置したサーバに蓄積し、履修生の自己学習に活用 
 事業専用ホームページに掲載している手術動画等、新たな教材データの蓄積により、自己学習の利便性が高まり、他施設での実習で学んだ手術手技の復習や講演会等に参加できなかった履修生へのフォローが可能となった。豚の実習時の講義内容は、少ない脳死臓器摘出が実際にあった際に参照し、マニュアル的に利用することができた。

③他施設における肝移植実習等、実地研修
 外科医コースでは、他施設での実習時には確実に肝移植手術に助手、場合により術者として参加でき、特に自施設で肝移植手術への参加機会が少ない履修生にとっては貴重な技術習得の機会となった。また自施設で症例が比較的多い履修生にとっては、異なる手技の比較を学び、自施設での手技修飾のきっかけとなるなど、連携施設における手技の均てん化にも有用であった。また、移植適応の評価方法、術後早期の管理方法を、手術をはさむ数日の滞在で体得可能であった。一部の履修生は、外来診療の見学機会も得て、長期経過後患者のフォローに関する知識も得た。
 コーディネーターは、外科医よりもさらに他施設との連携が少ない職種であったため、実習では他施設での患者ケアの実態を細かく学び、それまで自施設での指導のみで活動していたものが、より自律的に活動するきっかけとなった。また、外科医同様、業務の均てん化に有用であった。さらに、本務の都合によりまとめて受ける機会がなかった座学を実地研修時に受講することができ、知識の充足に有用であった。

④豚を用いた臓器摘出移植実習
 大動物(豚)を用いての臓器摘出、移植実習は、日常、履修生の世代では実際の参加が極めて困難な脳死肝摘出や移植手術を自らが執刀して行う貴重な機会であり、チューターや外部講師の指導により、濃密に体験することができた。また、国内臓器摘出には特有の手順や決まり事もあり、これを指導者から適切に指導して、実際に将来携わる上での情報を得ることができた。
 また、平成26年度に本実習で教育を受けた外科医コースⅠ期生も屋根瓦方式で助手として参加することで、Ⅱ期生のみならずⅠ期生にとっても手技等の再確認となり、手技の向上に効果的であった。

⑤国外で開催される、集中的な肝移植担当医療人養成講座や移植実施施設への派遣
大動物(豚)での実習までは国内で可能であるが、実際にヒトの肝臓を用いての実習は現場以外では不可能であり、その「現場」が極めて少ない現状では、この実習は極めて有意義であった。レシピエントの登録、移植適応、臓器摘出前のドナー管理や評価、他の臓器も含めた摘出の実際、臓器保存の方法、バックテーブル手技という、ドナーから摘出された肝臓をどのように移植に適した状態に整えるかなど、脳死肝移植に関する知識技術を1日の座学と1日の実習に分けて講義指導するもので、国内では受けることができない内容を学ぶことができた。

⑥WEBを用いた講習会、講演会の開催
 バーチャルスライドシステムとWEB会議システムを並行して用いることにより、難診断両例や教育的価値の高い症例の微細な供覧と診断が可能で、病理コース履修生には、国内でもっとも実績がある京都大学羽賀教授の解説や講義を直接受ける貴重な機会となった。本検討会には、連携施設の病理の教授も参加し、病理診断学の中でも比較的特殊な肝移植病理の認識を高め、今後の履修生活動の円滑化にも間接的に有用であった。また、実際に肝生検を行って診断を求めるのは移植外科医であり、外科医コース履修生もこの講習会に参加して、上記指導医による直接の診断所見を学び、またその解説を聞くことにより、外科医コース履修生にとっても貴重な情報を学ぶ機会となった。

⑦WEB会議システムを利用した講習会、検討会の開催
 コーディネーター履修生は、全員看護師であり、コーディネーター業務専従者は少ないため、本務の都合で自習や講習に出向く機会が限られる傾向がある。このため、自施設にいながら開催できるweb勉強会は、各自の知識を補填するための講習内容の修得とともに、情報の共有としても貴重な機会となった。

⑧平成28年度の履修生の募集 
 平成28年度の履修生として、平成27年度末時点で外科医5名、病理医2名、コーディネーター2名の応募があり、履修開始予定である。外科医については、平成27年度に2名多く履修を開始しているが、平成28年度は予定通り6名の履修を予定し、現在、残り1名につき岡山大で人選中である。

⑨ファカルティー委員会、チューター委員会、Co教育チーム会議等の開催
 ファカルティー委員会では、平成27年度の活動が承認され、また、各履修生の活動内容の報告を受けた上で、履修の修了及び延長の承認を得ることができ、履修生の評価と活動環境の整備に有用であった。さらに、外科医コースの履修内容として、肝移植にとどまらない外科手技の紹介を、各ファカルティーが主体となって行う企画の提案があり、今後詳細を決定して実行予定とするなど、履修内容の改善向上にも有用であった。
 チューター委員会は、各施設で実際に診療担当の実行責任者として関与している医師が参加し、安全管理について意見交換を行い、履修生を含む、肝移植実施に関与する医療人の注意について再確認する機会となった。コーディネーター(Co)教育チーム会議では、随時、履修内容の検討を行うとともに、履修をより効率的に行う方法等の検討し、履修環境の改善に有用であった。

⑩全コース合同の委員会を開催
 全体会議には、関係者あわせて40名が参加し、履修生にとっては、本プログラムの全体像を認識する上で重要な機会となった。また、各自が平成27年度の活動を発表し、自己評価を行い、改善点を含めて評価を得る機会となった。さらに、履修を受ける上での希望や提案を受ける機会ともなり、今後の履修内容の向上に有用であった。実習時の連絡体制の確認など、今後より円滑に履修を継続するための情報を得る機会でもあった。

⑪評価委員会の開催 
 履修生にとって、本プログラムが第3者からどのように評価されているのかを実際に見聞する機会となった。病理コースの進捗が遅れている指摘があったが、全体に活動性が高まっていることが高い評価を得て、履修生もいっそう今後の活動を継続するモチベーションを高める結果となった。
 平成28年度に評価委員の意見を反映して1年間の実習を行うこととしていることについて、今後同様な長期履修を検討する情報を得る機会となった。
コーディネーターコースに関しては、より一層の認知度を高める努力、各施設で履修生などがさらに他のコメディカルに肝移植医療での患者支援の輪を広げる努力を行うべきと言う指摘があり、平成28年度の履修内容の向上に資するものとなった。さらに、医師以外の評価委員からは、平成27年度に生じた生体肝移植を巡る種々の問題を踏まえて、医療の質を高め、患者中心の医療の実践をさらに遂行するように求められ、履修のみならず、肝移植という先進医療遂行での規範をあらためて認識する機会となった。

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