平成28年度

平成28年度の総括

本事業の実績・成果 (文部科学省提出実績報告書から抜粋)

【本事業の実績】 

 平成28年度は、過去2年間で形成された教育基盤も利用して研修を継続した。すべてのコースの履修生は、数日間から最長1年に亘り他施設実習を行った。外科医コースは、豚を用いた臓器摘出移植実習を2回開催し、オランダで開催された臓器摘出や分割肝移植セミナーにもⅠ、Ⅱ期生が参加した。日本急性肝不全研究会(千葉)、日本肝移植研究会(旭川)と日本移植学会(東京)で共催のシンポジウムやセミナーを開催した他、連携大学(金沢、千葉)がそれぞれ肝移植関連の講演会を開催し、各参加者が肝移植の手技や合併症等の情報、移植関連領域、脳死肝移植の知識や情報を収集した。講演会、手術動画、講義内容等は継続して記録し、ホームページの教材としてアップした。
 コーディネーターコースでも、他施設での実習の他、研究会学会での共催プログラムを企画するとともに、web勉強会を開催した。病理コースは、テレビ会議とバーチャルスライドシステムを活用し、テレパソロジーによる講演会、標本供覧検討会を定例的に開催した。

〈具体的な実績〉

①連携大学主催の講演会・講習会の開催、学会等で共催企画を開催するなど、本事業の肝移植・臓器移植の領域への周知                               
独自開催の学術講演会を、8月27日に金沢大学主催で金沢で、11月19日に千葉大学主催で千葉で、それぞれ開催した。5月の日本急性肝不全研究会(千葉)、7月の肝移植研究会(旭川)、10月の日本移植学会総会(東京)で、主催者と協議の上、それぞれ共催企画を開催した。

②各大学で撮影した手術手技の動画や病理画像等、教材データを本事業で平成26年度に設置したサーバに蓄積し、履修生の自己学習に活用                  
本年度、各大学で撮影された、肝移植や、肝胆膵外科手術の関連手技をまとめた手術映像が9件追加で教材としてアップされ、さらに、動物実習で行われる臓器摘出に関わる手順の確認スライドも教材としてアップされた。また、定例開催された、病理医養成コースの、京都大学羽賀教授によるweb講演会も録画し、教材としてアップした。

③他施設における肝移植実習等、実地研修                                   
移植手術の他施設実習は、今年度、外科医Ⅰ期生では留学中の1名を除いた3名で延べ12回(うち一人は、身分移動を経て1年間の実習)、Ⅱ期生6名中4名で8回、Ⅲ期生5名中4名で延べ7回、の合計27回の実習が行われた。コーディネーターは、前年からの履修延長者を含め3名で、延べ5回、病理医は、4名の履修生全員が1回ずつ京都大学病理部での実習を行った。                                                         

④豚を用いた臓器摘出・移植手術実習           
少し時期が予定よりも遅れたが、12月23日と、2月12日の2回、いずれも神戸で臓器摘出、移植手術のシミュレーションを開催した。                                                         

⑤国外で開催される、集中的な肝移植担当医療人養成講座や移植実施施設への派遣 
当初予定されていた6月でのヨーロッパ移植学会主催の実習コースは参加人数が少なく中止となり、10月21-23日の2nd Basic Course in Liver Transplantation (オランダ、ライデン)、12th European Donor Surgery Masterclass-10th Basic course on the split liver (オランダ、ロッテルダム)に、それぞれ、5名、3名のⅠ期生、Ⅱ期生が参加した。

⑥病理医・外科医履修生を対象としたweb会議システムを用いた講習会、検討会の開催 
連携施設指導施設の病理医と、症例を実際に担当する外科医が主に参加して、web病理検討会が9回(延べ16例の検討)、京都大学羽賀教授によるweb講演会が4回開催された。                                                              

⑦コーディネーター履修生を対象としたweb会議システムを利用した講習会、検討会の開催    
7/31、8/12、11/19、12/20、3/31の合計5回、コーディネーターコース独自の勉強会が開催され、うち3回はwebを用いた。                                                          

⑧平成29年度の履修生の募集                                             
平成29年度の履修生として、外科医コース2名、病理コース2名、コーディネーターコース2名の予定で連携施設に公募した。                                                                 

⑨ファカルティー、チューター、Co教育チームの会議等の開催
①7月7日 第34回日本肝移植研究会(旭川)時、第1回プログラム連絡会議が開催された。              
②9月29日 第52回日本移植学会総会時に第2回連絡会議(外科医、病理医コース)が開催された。

⑩全コース合同の委員会の開催
3月5日に全体会議を開催し、平成28年度の活動内容の報告、各履修生本人からの報告、手術経験度調査内容の発表、平成29年度の活動内容の討議と承認の後、評価委員から講評コメントを得た。また、平成28年度で履修を修了した、外科医、病理医、コーディネーターコースの、全10名に履修修了証を授与した。       

⑪評価委員会の開催                                       
3月5日に全体会議に際して、3名の評価委員が出席し、各履修生からの報告を含めた平成28年度の活動報告及び平成29年度予定への評価のコメントを得た。欠席者からは平成28年度の活動報告、平成29年度の計画を書面で送付した上で、書面でのコメントを得た。

 

【本事業の成果】

 事業開始時に履修を始めた外科履修生4名中、外国留学となった1名を除く3名が、他施設での実習や動物を用いたシミュレーション、ヨーロッパでのヒト肝臓を用いた摘出や分割の実習、さらに、各施設で企画した講演会での座学、学会研究会での共催企画における発表などの能動的参画を積み重ね、3年の履修期間を満了した。また、コーディネーターも、昨年から継続した1名を含めて3名、また病理医は、昨年履修開始の2名を含めた4名が、それぞれ1年コースの履修を完了できた。症例が比較的少ない、金沢や千葉でも履修修了者があり、本プログラム全体の目的である、肝移植担当医療人の養成による増加は果たすことができつつある。また、各施設持ち回りで講演会を企画してきたが、それぞれの施設が能動的に内容を計画する中で、当事者意識も涵養されて、医療実施レベルの均てん化に寄与している。また、外科履修生の横のつながりは強固となり、情報交換にとどまらず、移植手術手技の修得における切磋琢磨が実行されている。また、肝移植病理の基礎的講演会を継続して実施し、その内容や手術ビデオがHP上で教材として整備されつつあり、この蓄積を将来的に公開して、全国的な専門医育成制度に利用する素地ができつつある。
 本プログラムの教育基盤として平成28年度に大きく進展したのは、病理医養成コースの履修内容で、長崎大学に導入されたバーチャルスライドサーバーを用いて、各施設の難診断症例をこのシステムで供覧するとともに、通常のテレビ会議システムを同時に作動させて、6施設と指導施設も含めての、外科医も交えた供覧討議検討を定例的に行うことができた。これにより、病理コースの学習は格段に深化し、懸案の京大への実習参加も実現して、27年度開始以降の4名がそろって履修を修了できた。外科医は、昨年度までの実習中心の学習を継続したが、上記の病理検討会での外科医の積極的参加が目立ち、難症例の検討を通して、各履修生が実臨床としての経験を深め、さらに関連施設全体の医療レベル均てん化に寄与した。また共催した学会研究会では、本プログラムの紹介や履修生の発表が行われ、履修生の研修への動機を高め、また本プログラムの周知に有益であった。昨年度に続いて施行した、各外科医の経験度調査では、Ⅰ、Ⅱ期生の経験度が増す一方で、最新のⅢ期生の実習実績がやや伸び悩んだ。その中で、外科医Ⅰ期生の1名が、1年間という長期の実習を他施設で行い、執刀経験を積むなどの実質的な知識技術向上が図られたが、それを可能にした、本プログラムに基づく学長間連携、人事交流の意義が明確に示された。

〈具体的な成果〉

①連携大学主催の講演会・講習会の開催、学会等で共催企画を開催するなど、本事業の肝移植・臓器移植の領域への周知                                  
金沢では、コーディネーターに特化した内容として、移植後の妊娠の実態とケアについて、病理医コースでは国外での肝移植病理診断の実状、そして外科医コースとしてファカルティーのひとりである岡山大学八木教授の手技に関する講演と、各領域の専門性を意識した内容が企画され、履修生の知識の拡充に有意義であった。また千葉の講演会では、肝移植と薬剤師業務の関わり、救急の医師からみた臓器提供の課題、そして、現在の脳死肝移植適応評価委員長である市田隆文博士の講演と、専門領域をさらに越えた枠組みで、肝移植医療人としてするべき広範囲、あるいは多職種、社会との関わりについての知識を深めた。急性肝不全研究会、肝移植研究会、移植学会での共催企画では、履修生の聴講はもとより、シンポジストとしての参加や発表も通して、能動的な知識の整理と課題解決能力を涵養し、さらにこれらのフォーラムを通して、全国の肝移植医療人全体へ本プログラムが周知される機会となった。                                                               

②各大学で撮影した手術手技の動画や病理画像等、教材データを本事業で平成26年度に設置したサーバに蓄積し、履修生の自己学習に活用                  
関係者のみがアクセスできるweb上でこれらの教材を公開し、プライバシーに配慮しつつ、実際の臨床例をもとにした映像や解説などで、特に振り返りの学習に重要な教材となりつつある。今後、これらの教材はe-learningコンテンツとして利用することを検討している。また、プログラム終了までには、プライバシーに配慮しつつ、履修生や関係者以外にも公開して教材として用いることができうる内容を蓄積できている。

③他施設における肝移植実習等、実地研修                                   
本年度初めて病理医コースの実習が実行され、極めて多数の症例を蓄積している京都大学で、国内随一の専門家である羽賀先生の直接の教授を得て、短期間ではあるが、肝移植病理の診断実践能力向上に極めて有用であった。外科医は、他施設での実習を継続することにより、手技の実経験の機会が増し、自施設症例が少ない金沢大学などでも、履修生が実際の手術時に執刀医を担当できるまでに成長できた。また1年間の長期修練を行ったⅠ期生は、生体肝移植のドナーレシピエントをほぼ執刀できるまでになった。実習を通して、年々、履修生間の親密さも増し、切磋琢磨の気風が醸成されている。各履修生の経験度を、手術の各相ごとに分けて調査しており、履修年数の増加とともに明らかに執刀や第一助手経験数が増加している。コーディネーターコースの実習は昨年に引き続きやや低調に終わったが、貴重な機会として各履修性が最低1回は他施設実習を経験し、日頃は移植関連業務に集中できない環境の履修生も、この機会に多数の患者を対象に実際の業務を経験して学んだ。

④豚を用いた臓器摘出・移植手術実習           
外科コースⅠ期生からⅢ期生までの参加で、実際の脳死臓器摘出に関わる手順や、膵臓チームとの兼ね合いなどの講義を受けた後、各履修生が執刀や助手を交互に経験する形で、講師の指導のもと、実習が行われた。                                                         

⑤国外で開催される、集中的な肝移植担当医療人養成講座や移植実施施設への派遣
Ⅰ期生のうちの1名は、この研修への参加が契機となり、ライデン大学への留学と臨床研修のポストを得ることができ、本プログラムの存在がヨーロッパ移植学会の教育研修担当者に広く認知される結果となった。また、各履修生は、国内で極めて少ない実地の脳死臓器摘出や分割の知識や手技を、多数保存されているヒトの実物の肝臓を用いての実習を通して身につけることができ、本プログラムで実施しているブタを用いたシミュレーションとともに極めて実用的な修練となって、実際の脳死臓器摘出での執刀の準備として極めて有用であったという評価を履修生から得ている。

⑥病理医・外科医履修生を対象としたweb会議システムを用いた講習会、検討会の開催
検討会は、長崎大学に設置され同病理部の担当者がスキャンしてバーチャルスライドサーバーを用いて各施設で供覧される、各施設提供の難診断症例をテレビ会議システムも併用して、熊本大学の司会のもと、外科の担当医が紹介し、各施設の病理医が診断して、京大羽賀教授がコメントを加えるという形式で行われた。これにより、症例体験の共有化が図られ、病理医の診断技術の向上にも大きく寄与した。さらに、昨年度から引き続き、本年度合計4回に及ぶ、肝移植病理の基本的事項、最新の診断ガイドラインの紹介なども行われ、肝移植病理を網羅する内容の講演が集積され、すべてweb上に保存提供されて、履修生の自主学習に供され、将来のe-learning教材コンテンツの基礎が形成された。

⑦コーディネーター履修生を対象としたweb会議システムを利用した講習会、検討会の開催    
コーディネーターコースの履修生は、通常の看護師勤務者が多く、なかなか対面での勉強会や会議を持つことが困難で、本年度は、webを多用することを計画し、当初からできるだけ開催日程を定めて行った。また、対面勉強会は他の企画時に併せて行われた。今までは、コーディネーターの素地を持った看護師が履修したが、特に新規の履修生は基礎的知識も十分でなかったが、連携施設で現在コーディネーター職にある看護師たちが相互に指導を行う形式で、新規履修生は専門領域の技術知識を吸収し、修了者や現職は、知識を共有する機会となった。                                                               

⑧平成29年度の履修生の募集                                             
平成29年度の履修生として、現時点で、外科医2名(岡山、千葉)、病理医2名(岡山、金沢)、コーディネーター1名(千葉)が募集され、長崎からコーディネーター1名の応募予定がある。                                                                                       

⑨ファカルティー、チューター、Co教育チームの会議等の開催
①関係6大学のすべてから、各履修コースの医師看護師合計19名が参加し、本年度の各履修コースの予定紹介、e-ポートフォリオの現状、教材アップロードの依頼、および、Meet the Expert(仮称)の企画の検討、などが行われた。
②事業責任者より今後のプログラムの運用、特にe-ポートフォリオに関する今後の履修に関しての詳細が説明され、情報共有が図られた。また、バーチャルスライドシステムとv−cubeテレビ会議システムの双方を用いた病理診断検討会、講演会の運用方法についての意見交換、ブタ実習についての希望聴取など本プログラムの円滑な運用に有益であった。

⑩全コース合同の委員会の開催   
全体会議には、関係者あわせて45名が参加し、履修生は各自が平成28年度の活動を発表し、自己評価を行い、改善点を含めて評価を得る機会となった。また、外科履修生各自の手術各相の経験度調査結果も公表され、進歩と不十分な点を確認し合うことができた。本年度は、病理web実習が定例的に実施されたが、その際のバーチャルスライドシステムのアクセスの詳細について、担当の長崎大学から説明を受け、今後の円滑な利用に資するものであった。

⑪評価委員会の開催     
 各履修生が報告を行う事によって、履修の進行を各自認識する機会となった。外科医の経験度調査の内容から、技術の練度が上がっているという認識が共有された。評価委員からは、平成28年度の活動性を評価する意見が相次ぐ一方で、さらにこのプログラムを開かれたものにする取り組みへの期待が述べられた。コーディネーターコースに関しては、履修生のリクルートに難渋する現状から、外科医同様、海外での研修もカリキュラムに含めて動機付けをする工夫なども提案された。また、手術手技という客観評価が困難なものの達成度をさらに客観的に評価する方法を模索する努力を勧められ、次年度の履修制度修飾の指針を得た。

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