平成30年度の総括
評価委員会委員からの意見
兼松隆之先生
実行責任者の猪股と同時期に肝移植をやっていたものである。その立場で評価委員という役職をいただいた。本プログラムには、肝移植の専門医療人養成と、六大学連携、という二つのキーワードがあった。その視点でいくと、医療人育成に関しては、履修修了予定者を含めてほぼ外科医、病理医が予定通り、コーディネーターは計画より2名少なかったとのことであるが、働き方改革もあり看護師の多忙もあったことと思う。よって人材育成に関しては、先ほどの個々の発表も聞いて、このプログラムは十分寄与した、と言えると思う。六大学の連係に関しても、外科医に関しては、他施設での実習実績が多くあること、また何より、熊本と新潟大学間での教官ポストを維持しながらの人事交流がこのプログラムによって実現したこと、も踏まえ、このプログラムが外部からも高く評価されたものであるといえる。さらに、海外との連携もでき、国内指導施設の協力もあって本プログラムは成功したものと思う。学問的業績もいくつか得ることができた。各履修生の「質」の評価が未達成、とされているが、数年後に、履修修了生の人材がこの領域でどのように活動してくれているか、に関わるのではないか、よってまだその評価には時を要するのではないか、と考える。
國土典宏先生
数年来参加しているが、いつも履修生のみなさんの熱い発表に感銘を受けている。5年間無事に終了されることはまずは敬意を表したい。いつも辛口のコメントであるが、移植外科医の一人として応援しているつもりである。
このプログラムの良かった点、悪かった点、Pros, Cons,で述べてみたい。
まず良かった点は、履修が人数的にほぼ目標通りであったこと、さらに、各履修生が貴重な経験をされてこれから移植医としてそれぞれのキャリアを続ける上で十分なモチベーションをもったのではないかと思う。また、移植医の同世代間の交流が十分できている。資産としては、このような人材育成のモデルを創ったことがあげられ、これは肝臓移植領域では初めてで画期的なことであると思う。また、内容について、ブタの実習が頻回に開催され、これが執刀機会の少ない移植医に非常に貴重な修練機会になったことが理解できた。
Cons, すなわち課題としては、履修者の発表にもあったが、所属施設の症例数や卒業年次の違いなどで均質化が困難かと思われるが、各個の到達目標が不明確な点である。できれば、肝移植を1-2例でも執刀するところを目指してほしいと思うし、その点では必ずしも全員で達成はできていないと思われる。さらに、なぜ6大学なのか、という点である。まずこの枠組みでモデルを創る、そして全国にこの流れを普及させるきっかけになる、と言う点では評価できる。今後のことにもつながるが、是非六大学の枠を越えて広げていただきたい。それには学会との連携が必要と思う。このプログラムの、育成に関するノウハウ、さらには冊子などの資産もあるが、こういうものを是非他の施設の若い医師に役立つように広げてほしい。さらに、今後2年間、熊本大学の貴重な資金を確保したとのことだが、この点でも学会との連携強調も必要であろう。例えば日本移植学会などでは若手の将来の指導医養成のための合宿などをやっているが、そのようなやり方も含めて、学会、例えば日本肝移植学会との何らかのコラボ、資金面の負担も含めて検討すべきであろう。熊大だけに資金負担を負わせていいのか、という事も言える。
小西靖彦先生
元移植外科医で現在は医学教育の専門家として委員に指名いただいている。これだけの履修修了者をだしたことにまず敬意を要する。このプログラムがあったから経験できたことも多かったと推察する。また経験者が、自然に交流できる関係となっていることも将来の活躍の場が広がることにつながると思う。このようなきちんとしたプログラムで育った人たちが次の代に活躍できる肝移植の世界になればと思う。外科履修生では、手技と病理の学習が大きかったと推察される。肝移植を担う人材育成という点で、このプログラムのアウトカムは何か、と問われれば、あと数年、あるいは10年後に、履修生たちがどう活躍するかにかかっていると考える。ただ、学習の環境を考えると、非常に整えられた場での学習よりも、理不尽不条理の中で学んだことの方がより残る、ということは多くの人が経験するところである。履修を修了した今後は、さらに道を自分で切り開いてくれれば、と思う。最後に、この予算の厳しい中で今後の展開は難しい。自分も他の領域で同じ課題解決型事業を運営してきたが、今後は、受講者から受講料をいただいて運営することとしている。
添田英津子先生
前職は、慶応大学病院でコーディネーターをしていた立場である。
最近知った情報であるが、現代人の3日間の情報量が江戸時代の人の一生の情報量に匹敵するとのこと。履修生や関係者がこのプログラムを経て得た経験や情報は、近い将来日本で移植が増えた段階で、必ず役に立つことになるだろうと確信している。そのような情報や経験を、プログラム立案を通して提供いただいた責任者に祝意を申し上げたい。コーディネータープログラムとしては、自分は海外派遣を提言したことがあって、一度実際にアジア移植学会に参加したが、学会参加よりは、海外での座学で学ぶセミナーなどのような機会に参加いただくほうがよかったかなと思っている。看護師の勤務がきつく、なかなか時間がとれない実態がこのプログラムの結果にも反映されていることは理解できる。履修生の発表からは、学習、修練に対してのモチベーションに駆られた源になったプログラムであるという印象が伝わった。自分の経験でも、当時の肝移植のメッカ、米国ピッツバーグに7年間いたが、その時に渡航の背中を押したのは患者さん団体の代表であった、となりにおられる竹内さんたちであった。ピッツバーグでは多くの症例があったが、そのとき、実際にコーディネーターとして臓器摘出に参加して、一生心に強い印象として残る経験をした。履修生のみなさんが、このプログラムで得た経験をぜひ記憶して将来に活かしてほしい。韓国の例でも、年間脳死移植が100例をこえるとその後ぐんぐん増えている。日本でも5-6年後、同様な数になる時代がくるかもしれず、そのときにこのSNUCの経験が生きると思うのでがんばってほしい。
竹内公一先生
胆道閉鎖症の子どもを守る会の代表として委員に参加している。5年間、お話しを聞かせていただきありがとうございました。また、これまで、私たちの子どもたちの命を助けていただき守っていただきましたことを感謝申し上げます。自分の子どもも42才ですが、16才の時に京大で、田中先生、猪股先生に移植を受けました。このプログラムを遂行されましたこと、祝意と感謝の思いである。自身の感想として、履修生の発表として、各施設の違いがあること、その違いがこのプログラムのネットワークで共有され移植医療の質改善につながると期待される。このネットワークを活かして、患者がどこでも同じような、いい医療が受けられるようにしてほしい。国の制度として大学がみんな一致してこのような仕組みを作ってくれれば、と思う。この全体会議に出て発表を聞いていると、みなさんの力が結集されれば、多くの疾病の治療が晋のではないかという感想を持つ。さらに、脳死待機患者に比してドナーが不足しているのは現実である。臓器提供を進めるためにも、患者団体とも協力して、移植が一般医療になるような体制を作ってほしい。