平成30年度の総括
本事業の実績・成果 (文部科学省提出実績報告書から抜粋)
【本事業の実績】
平成30年度も、これまでの履修期間で定例化してきたカリキュラムを継続した。外科コースでは、施設間相互実習の継続、ブタを用いた肝摘出移植実習を1回開催した。全体会議でも希望が強く、昨年度から、新たな企画として「Meet-the-Expert」を開催し、昨年度の血管吻合に続いて、本年度は胆管吻合について、を開催した。日本肝移植研究会では、昨年度同様、主催者と企画段階から検討した共催セッションを企画した。第31回日本内視鏡外科学会総会(博多)の機会に、これまで同様ISEMと共催したマイクロ動脈吻合ハンズオンセミナーを開催した。ヨーロッパ移植学会主催第3回 Basic course in liver transplantation 、のほかELITA(ヨーロッパ肝小腸移植学会主催の第6回分割肝移植研修会への参加、を企画した。第12回肝臓内視鏡外科研究会で共催シンポジウムを企画した。本プログラム国際的な評価を得るために、外科コースでは英語論文の投稿を推奨した。病理コースでは、京都大学での対面実習の他、年度内にweb会議とvirtual slide systemを用いた供覧検討会を8回開催した。コーディネーターコースは1名の新規参加にとどまったが、対面やwebでの勉強会を全部で5回開催した。
〈具体的な実績〉
① 連携大学主催の講演会・講習会の開催、学会等で共催企画を開催するなど、本事業の肝移植・臓器移植の領域への周知
第36回日本肝移植研究会と以下の共催企画3題を企画した。
・シンポジウム2 生体肝移植におけるドナー手術、レシピエント手術の進化
・パネルディスカッション 生体肝移植におけるドナーの基準
・第20回 肝移植病理検討会
第12回肝臓内視鏡外科研究会(東京)で以下の二つのセッションを共催した。
・シンポジウム2-1 腹腔鏡肝切除導入に向けて 各施設の取り組み
・シンポジウム2−2 腹腔鏡肝切除導入に向けて 各施設の取り組み
② Meet - the - Expert セミナーを開催する
2019.1.20「胆道再建について」をテーマに、昨年の血管再建に続いて2回目の開催となった。基調講義と各施設からの動画を中心とした発表、それに続く、手技などについての詳細な質疑が行われた。
③ 他施設における肝移植実習等、実地研修
平成30年度は、外科医コース延べ7回、コーディネーターコース1回、病理医コース1回の、合計延べ9回の他施設実習が行われた。
④ 豚を用いた臓器摘出・移植手術実績
本年度は1回のみであったが、通算第9回目の実習を平成30年10月21日 郡山市の「ふくしま医療機器開発支援センター」で開催した。
⑤ 国外で開催される、集中的な肝移植担当医療人養成講座や移植実施施設への派遣
・6th ELITA Split Liver Course (ベルギー へント)に派遣した。
・3rd Basic course in Liver Transplantation (オーストリア ウイーン)に派遣した。
⑥ 病理医・外科医履修生を対象としたweb会議システムを用いた講習会、検討会の開催
本年度は、肝移植病理検討会(Virtual slide system利用)を8回開催し、全施設から診断困難症例など全部で16例の症例提示がなされ、外科医病理医の討議の上、京大羽賀教授から模範診断が示され、実地臨床にフィードバックされた。
⑦ コーディネーター履修生を対象としたweb会議システムを利用した講習会、検討会の開催
対面研修会1回、web講習会5回が開催されてコーディネーター野履修に活かされた。
⑧ ファカルティー、チューター、Co教育チームの会議等の開催
平成30年5月25日 日本肝移植研究会に際して、外科医、病理医、コーディネーター各コース合同の連絡会議を開催した。
⑨ 全コース合同の委員会の開催
2月24日に全体会議を開催し、平成30年度の活動内容の報告、各履修生本人からの報告、次年度以降(文科省交付金期間終了後)の活動内容の討議と承認を得た。また、平成30年度で履修を修了した、外科医、病理医、コーディネーターコースの、全8名に履修修了証を授与した。
⑩ 評価委員会の開催
2月24日の全体会議に際して、5名全員の評価委員が出席し、各履修生からの報告を含めた平成30年度の活動報告及び5年間の総括報告をうけ、さらに今後の事業延長計画を確認承認した。
【本事業の成果】
(1) 全体
外科医コース2期生で留学中の1名が履修中途休止中であるが、本年度末で、平成28年度に履修を開始した外科医コース5名全員が履修を終了し、そのほか、1年コースの病理医2名、コーディネーターコースの1名を加えて、本年度末までに、合計31名が、本プログラムを終了した。本年度末で、三つの履修コースすべてで、連携6大学すべてからの履修生を輩出でき、各連携施設での肝移植におけるチーム医療体制構築に資することができた。また、新潟大学では、本プログラム履修修了者を中心に肝移植チームが組織され、中断中であった肝移植プログラム再開に向けて、倫理委員会承認を得るなど体制が整いつつある。他施設での実習や、ブタを用いたシミュレーションの継続的な実習の蓄積もあり、外科履修生の横のつながりはいっそう強固となり、情報交換にとどまらず、移植手術手技の修得における切磋琢磨が継続して実行されている。また、肝移植病理の供覧会の定例化は定着し、この領域でのオーソリティーから質の高い標準的診断に関するコメントをリアルタイムで、また実診療に即していただけることもあって、病理診断の施設間格差解消に加えて、外科医の肝移植病理の評価と認識を高める効果を生んでいる。講演内容は一部冊子化して教材としての利用度を高めて、今後の継続的な研修教育に資する基盤を作った。
(2) 本年度
外科コースでは、新規履修開始者が減少してすでに他施設での手術の経験を有する履修生が相対的に増えたため、施設間相互実習がやや低調であった。しかし、今年度は予算の関係1回の開催に留まったが、ブタを用いた肝摘出および移植実習には対象履修生がほぼ全員参加した。また、昨年から新たな企画として行った「Meet-the-Expert:胆道再建」にも、全施設から多くの履修生とチューターが参加し、エキスパートによる基礎的な手技の講義、各施設での特徴的な手技の紹介と一部履修生個人が行った手技のビデオも材料に、基礎的なことから実践的な細かいノウハウまでを時間をかけて議論できた。例年通り、ISEMと共催したマイクロ動脈吻合ハンズオンセミナーは、全国からの非履修生とともに肝移植における顕微鏡下動脈吻合手技を学ぶ機会となっており、一部の履修生野報告ではこれがすでに実践に活かされることとなっている。日本肝移植研究会で例年通り、共催プログラムを企画して全国の専門医療者と情報共有する研修機会を提供し、また、今後の鏡視下肝切除の普及を見据えて、第12回肝臓内視鏡外科研究会で共催シンポジウムを企画し、履修生の参加を得た。本年度は、欧州での分割肝移植、肝移植の基礎講座への参加者も合計4名あり、ヒト由来の献体肝臓を用いた、きわめて実践的な研修を、少人数クラスで受講できる機会を得ている。また、1名は、履修修了生が留学中の大学を訪問して、実習に参加し、講座開催国オランダの肝移植を学ぶ機会を得た。本プログラム経費の支援を受けて、肝移植教育に関連した論文2編が出版され、また、ブタの実習での履修性実技実習に資するための血管シャント形成についても論文化が進められていて、本プログラムの連携施設外への周知が継続的に図られている。病理コースでは、定例のweb供覧会で各施設からの標本供覧をバーチャルスライドで共有し、供覧施設では病理医や外科医が自施設としての判断を提示してその後京都大学羽賀教授に的確な診断をいただく、と言う流れが定型化し、病理医と外科医に貴重な研修の場となっている。また、京都大学での病理実習では、実際の肝生検の処理診断の仕方の細かいノウハウを修得することができた。なお、羽賀教授が平成27年から28年にかけて5回に分けて行った肝移植の病理講義は、内容を冊子化して履修生などに配付した。コーディネーターコースはこれまで参加がなかった長崎大学からの1名の新規参加にとどまったが、先輩コーディネーターや医師によるWebでの勉強会のほか、成育医療研究センターでの研修も含めて実習も経験できた。なお、事業修了年度にあたり、熊本大学病院独自資金によるプログラムの2年間延長を決定した。
〈具体的な成果〉
①連携大学主催の講演会・講習会の開催、学会等で共催企画を開催するなど、本事業の肝移植・臓器移植の領域への周知
第36回日本肝移植研究会と、二つの企画と肝移植病理検討会を共催した。シンポジウムには連携・指導施設から4名の発表と司会、パネルディスカッションには連携・指導施設から3名の発表と司会、そして特別発言が行われた。第20回 肝移植病理検討会は、履修生4名が聴講した。このほか、第12回肝臓内視鏡外科研究会(東京、主催 連携施設の長崎大学江口晋教授)では二つの共催企画が組まれ、履修生1名がシンポジスト、連携指導施設から2名がシンポジスト、履修生、同修了生の聴講5名があった。なお、事前周知もあり、関連施設以外からの参加は100名あった。Meet the Expert セミナーも、昨年に続いての開催で、全連携6施設から発表、参加20名があった。ファカルティーである岡山大学八木教授からの基調講義の後、動画を中心として各施設からの手技の提示、難手術例の紹介、をえて、活発な討論が行われた。ただし、今回も周知が不十分で連携施設以外からは参加者が無かった。
②他施設における肝移植実習等、実地研修
外科医コースは、新規履修開始者が3名と少なく、すでに他施設実習を過去の履修期間に経験している履修生が多いことと、旅費が潤沢でないためにやや低調であった。病理コースは、日常業務がきわめて多忙な中、履修生側と受け入れの京都大学羽賀教授双方の日程調整が容易でなかったが、2名の履修生が合同で京都大学での実習に臨み、豊富な蓄積標本による研修、実地カンファレンスへの参加、たまたま同時に行われたwebカンファレンスへの京大からの参加、などを通してきわめて有意義な実習となった。コーディネーターはやはり日常の看護業務が多忙であったが、1回のみ、Web研修会以外に他施設参加実習の機会を得た。
③ブタを用いた臓器摘出・移植手術実習
今回は場所を変え、初めて、新設された公的機関である「ふくしま医療機器開発支援センター」で行った。都心からは遠方となるが、広く録画機器や手術機器に恵まれた施設で、前日現地入りし当日朝から実習を行うスケジュールで開催した。講義日程を省くため、これまでの自薦講義をHP上の教材で学んでいただくよう周知した。履修生は7名が参加し、複数回目の参加者も多く、新規履修者が中心になって執刀を行い、上級生がそれを指導するという「屋根瓦方式」で研修と手技の再確認の機会となった。また、今回、慶應義塾大学の小林教授の支援を得てブタ体外シャントが利用でき、より安定した動物の環境下で手技の実体験ができ、論文化にもつながると同時に、手順のマニュアル化も行われている。
④国外で開催される、集中的な肝移植担当医療人養成講座や移植実施施設への派遣
6th ELITA Split Liver Course (ゲント)では、分割肝移植の講義と実習(ヒト肝臓を用いて)には履修生3名参加した。うち1名は、終了後、本プログラム履修修了生の高木医師が留学中のオランダ ロッテルダム大学を訪問し、死体肝移植の実習などを経験した。本コースには、履修生を含めて日本人が 10名程度参加しており、国外を含めて連携施設以外の専門医療人との交流が図られた。3rd Basic course in Liver Transplantation (ウイーン)には履修生1名が参加した。全部で20名程度の少人数のクラスで日本人参加は1名だけであり、同年代の欧州で肝移植を担う医師のレベルの認識と情報交換を通して、今後の方向性を自覚する貴重な機会となった。
⑤病理医・外科医履修生を対象としたweb会議システムを用いた講習会、検討会の開催
全6施設から、のべ16症例の供覧が行われた。いずれの回も、長崎大学へ病理標本が送られ、本プログラム資金で装備されたvirtual slide systemで各施設に供覧され、テレビ会議システムを用いての症例提示と意見交換、そして京大の羽賀教授からコメントをいただくという定型化した検討会が継続して開催され、病理医、外科医にきわめて有意義な研修の場であるとともに、実地臨床への還元としても有効に機能した。
⑥コーディネーター履修生を対象としたweb会議システムを利用した講習会、検討会の開催
5月24日の日本肝移植研究会に際しての研修会と、8月以降計5回のWeb研修会が開催され、コーディネーターとして知るべき基礎的な知識についての講義がなされた。また、肝移植研究会では、共催企画の中で、コーディネーターがチーム医療の中で果たすべき役割についての検討会(パネルディスカッション)が開催され、医師とともに情報共有と議論がなされた。
⑦ファカルティー、チューター、Co教育チームの会議等の開催
全コースの履修生、教育担当者が参加し、年間プログラムについて、すなわち、e-ポートフォリオの課題作成提出についての確認、今年度外科医コースのブタ実習についての説明、Web病理検討会の予定、およびCo.研修について、などの説明、討議が行われた。また、他施設実習実施のお願いと手順について再度確認がなされた。
⑧全コース合同の委員会の開催
全体会議には、関係者あわせて44名が参加し、履修生は各自が平成30年度の活動を発表し、自己評価を行い、改善点、今後の留意点を含めて評価を得た。履修生からは、他施設実習の意義に加えて、動物実習の有効性が高く評価された。また、欧州での研修のすばらしさ、有益性が披露された。全施設の外科代表者、病理担当者、コーディネーター教育担当から、5年間の総括と相互への感謝が述べられ、特に新潟大学からは、このプログラムの修了者の蓄積により、自施設での肝移植が再開できる予定である旨が報告された。なお、外科履修生合計5名が、今後さらに履修を継続することになるので、今後の強い継続意思の表明もなされた。
⑨評価委員会の開催
各履修生全員が報告を行い、履修の進行を評価委員に詳細に認識していただくことができた。評価委員からは、欧州での研修の具体的内容についての質問が出されて参加者からその確認を得た。5年間の総括としては、質量ともに人材育成として履修修了者は概ね計画が達成でき、国内初めての肝移植医療人育成モデルの基礎が作られた事が評価された。育成を通して若手医療人の交流に寄与した点、連携大学間の人事交流を惹起した意義、海外コースへの参加など平成30年度の活動性も評価された。一方、参加履修生の技量のレベルが均一でなく、到達目標が不明確であったことは改善すべき点であろうと指摘された。さらに、これを国内に広げること、有形無形の遺産を学会などとの連携で今後に活かすこと、も推奨された。さらに、移植医も臓器提供に努力することが望まれた。将来の「多移植時代」にこの経験、ネットワークが生きるであろう事が想定され、各履修生が全国で均てん化された肝移植医療を展開する体制をつくって欲しいという希望も出された。